平成17年5月27日の講演会・運営委員会の報告

幹事 田嶋裕久


  1. 研究会講演会

     平成17年5月27日(金)10時00分より、東京海洋大学 越中島キャンパス越中島会館集会室1・2において研究会 講演会を開催した。
     参加者は20名で、有意義な3件の発表と質疑が行われ 12時00分に終了した。講演題目、講演者(敬称略)及び 講演概要は下記のとおりである。

    (1) 「ヘリコプター用動態管理システム実験について」
    〇菅野晃一(消防庁)

     総務省消防庁のプロジェクトにより大規模災害 時における消防防災ヘリコプターの安全かつ効率的 な運航を支援するシステムを開発し、その評価の ため平成13年度から15年度に3回の実証実験が行われた。

     このシステムでは地上でヘリコプターの動態管理を 行うため、機上に搭載されたGPS受信機による位置測位 データと気圧高度計の高度データをデータリンクで 地上側端末システムに伝送し、2次元地図または3次元の 図に切り替えて表示する。
     データリンクとしては、ヘリコプター搭載が可能で データ伝送に利用できる通信媒体が必要である。次世代 航空通信インフラとして、地上波無線から衛星通信の利用 への移行が進んでいる。

     平成13、14年度は日本で唯一のヘリコプター搭載実績 のある媒体であったインマルサットを使用した。しかし、 これはアンテナが大きく、搭載可能なヘリが限定され、 地上のMCA無線波(Multi Channel Access)の妨害を 受ける欠点があった。
     14年度は機上への気象情報伝送システムの評価も 行われた。平成15年度はイリジウム衛星による実験が 行われた。

     イリジウムは、通信用に打ち上げられた66個の 低軌道周回衛星であり、2000年3月にサービス停止と なったが、米国では2001年3月サービスを再開し、 日本では2005年6月1日にサービスを再開予定である。
     これは、小型軽量のアンテナで搭載が容易であり、 またMCA地上波の影響を受けない利点がある。 平成17年度導入予定の消防庁ヘリに動態管理システム を搭載予定である。


    (2) 「航空機の運航と次世代航法システム」
    〇外崎佳造(日本航空インターナショナル)

     1997年のホワイトハウスによるAviation Safety and Securityに関するコミッションに見る様に、 増え続ける航空需要の下、Fatal Accident発生率の 大幅な抑制の必要性が認識され、新航法システム 開発の機運が高まってきた。
     コンピューターの能力の発達により、Virtual Reality Displayをはじめ、高度にインテグレート されたシステムによってFatal Accidentの要因に 対処し、安全性と生産性の両方に資する航法関連 システムの実現性が出てきた。

     米国では技術開発の包括的で確固たる方向付けの 必要性が認識され、NASAがMid Term(2005〜2010年) において実現・導入されるべき技術(Flight Interactive Systems)として、World Wide Geospatial Databases、Synthetic Vision Systems (SVS)、Runway Incursion Prevention System (RIPS)、 Cockpit Weather Systems、Flight Critical and Non-Critical Architecturesの5項目を掲げ、開発を 主導するプロジェクトを開始した。

     これらの技術はGeospatial Databasesと航空機の Position InformationのようにSubsystemを通じて 繋がっており、最終的にはDisplay、Guidance、 Alert及びWarning Systemsの形に結実する。
     実現されれば航空の安全性向上と生産性向上に 大きく寄与すると解析されている。


    (3) 「VDLモード3について」
     〇北折 潤(独立行政法人 電子航法研究所)

     航空分野では、用途による分類として航空管制通信 (ATC)、運航管理通信(AOC)、航空公衆通信(APC)、 媒体としてVHF、UHF、HF、変調方式としてDSB-AM、 SSB-AM、PSK等の様々な空地通信システムがある。

     現行の対空通信の問題点としては、HF無線電話は 通信状態が不安定で音質が悪い、VHF無線電話は 欧米で割り当てチャンネルが不足し、シンプルな 変調方式のためセキュリティ上問題がある。 VHF ACARSでは、2400bpsと伝送速度が遅く、誤り 訂正符号なしのため信頼性が低く、高負荷時に 伝送遅延が大などの問題がある。

     ここでは、新たな空地通信システムの一つである VDL(VHF Digital Link)モード3について報告する。 VDLモード3はATC専用で、音声のデジタル化により 複数の音声及びデータを扱うことができ、周波数の 有効活用ができる。
     信号形式はD8PSKのTDMAで31.5kbpsの速度である。 誤り訂正符号により伝送の信頼性も向上した。 規格を定めたICAO SARPsは2001年発行された。

     音声通信では、デジタル化による性能と利便性の 向上があるが、現行アナログ音声通信と共通した 操作性を持たせている。データ通信では、地上局と 1機上局の2点間双方向データリンクおよび地上局 から全機上局の一方向(ブロードキャスト)通信携帯 がある。
     伝送速度及び信頼性の向上と、OSIプロトコルモデル 下位3層によるサブネットワークシステムとして機能する ことによりATN(Aeronautical Telecommunications Network)に適合している。

     電子航法研究所ではVDLモード3実験システムを開発し、 無線システム間の電波干渉影響の調査、室内実験・ 飛行実験による通信性能の評価、ATN連接私見による ATNへの適合性評価等の実施によりVDLモード3の導入、 運用における技術的検証を行っている。


  2. 研究会運営委員会

     研究会運営委員会は同日12:10から13:10まで、 集会室1・2において開催された。出席者及び審議事項は 下記の通りである。

    2.1 出席者

    石出、惟村、大沼、近村、長岡、天井、塩見、木村、 久木田、西、田嶋

    2.2 審議事項

    (1)平成16年度後期活動報告

    • 平成16年度会計報告は原案の通り承認された。

    • 平成16年10月15日に函館市の「サン・リフレ函館」 視聴覚室で開催された研究会秋季研究会講演会の概要 について報告がなされた。

    • ニュースレターは16年度2回(第50号、第51号)が 発行されたことが報告された。


    (2)平成17年度活動計画

    • 今回の講演3件について、学会誌「NAVIGATION」 への投稿を講演者に依頼することとなった。

    • 平成17年度秋季研究会講演会は、発表課題として 神戸衛星センタが近いのでMTSAT関連について検討 することとした。

    • ニュースレターの作成は17年度2回程度発行する こととした。

    • 航空宇宙研究会のホームページを作る予定であり、 次回のニュースレターからは掲載予定である。



「NAVIGATION」第162号 pp.82-83(平成17年6月)より


戻る