GPSコンパス

                                  日本無線(株) 
                               高良裕二

1.GPSコンパスとは
 GPSコンパスとは、図1のように2つのアンテナを
船首方向に取り付け、2つのアンテナの相対的な位置
関係から方位を計算する方位センサーである。





2.開発の背景
海上を航行する船舶が自船の進行方向を得るための安価な
方法として,GPSがある。しかし,潮の影響を受けると
進行方位と船首方位が一致するとは限らない(図2)。
そのため,多くの船舶は船首方向を求めるための方位
センサーとして、ジャイロコンパスまたは,磁気コンパス
を搭載している。現在,ジャイロコンパスは大型船には
搭載義務があるが高価,静定時間が長い等の欠点があり,
搭載義務のない小型船向きではない。そのため,多くの
小型船は磁気コンパスを搭載している。しかし,磁気
コンパスは測定精度が劣るという欠点がある。これらの
欠点を解決するためにGPSコンパスを開発した。







3.構成
 GPSコンパスのシステム構成を図3に示す。表示器、
処理器、アンテナの3ユニットから構成されている。
さらに、処理器は補助センサー(図4)、CPU、GPS受信機
(図5)で構成されている。GPS電波を用いるため橋などの
障害物で電波が遮断されると方位計算できなくなるが、
補助センサーを用いることにより最長5分間方位出力が
可能になる。











4.原理
 GPSの搬送波を用いて、測定した2つのアンテナ
と衛星間の行路差と、アンテナ間の基線ベクトルを
変化させて計算で求めた行路差を比較し、最も誤差が

小さい基線ベクトルから方位を求める(図6)。




5.仕様、特長

仕様 主な特長
方位精度 0.7度RMS 2アンテナタイプ
方位分解能 0.1度 ジャイロコンパスと同等の追従性
静定時間 約1分 静定時間が早い
最大回頭角速度 25度/秒 GPSの機能あり
データ出力 NMEAなど5ポート JRCレーダーに直結可能
電源電圧 DC10.8〜31.2V 5つの出力ポート



6.精度
 アンテナを固定し、連続で8時間方位計算させた結果、約0.35度RMSの
精度で方位計算を行うことができた(図7)。




7.THD
 THD(Transmitting Heading Devices)はIMOにより次のように
定義されている方位センサーデバイスのことである。

 A THD is the device that provides true heading information
for other devices such as AIS and RADAR etc.
Three categories of principles of the heading detection such as
magnetic, gyrocompass as independence, or GNSS as radio wave
were acknowledged.

現在、ジャイロコンパスは500gt以上に義務付けられている。
2002年7月のSOLAS改正に合わせ、300〜500gtの国際船にも
方位センサーデバイス搭載が義務付けられる予定になっている。
ユーザーはTHD対象機器より1つを選択し、装備することになる。



8.運用状況
 兵庫県明石市から淡路島の岩屋間を片道20分程度で往復する
短行路のフェリー(淡路明石フェリー)においてGPSコンパスが使わ
れている。
GPSコンパスはレーダーに接続され、真方位が分かることで、
レーダー画面をノースアップ表示にすることが可能であり、
霧などの視界不良時においても安全航行に有効である。
 行路の途中に明石海峡大橋があり、GPS電波が中断するが、
方位を再計算するまでの間、内部の補助センサーを用いて方位
を出力している。
 図7にレーダー画面を示す。この画面は地図画面とレーダー映像
が重なって表示されている。明石海峡大橋の映像が地図と重なって
おり、精度良く方位が得られているのが分かる。




9.まとめ
 GPSコンパスは、GPSを用いているので小型で低価格である。
性能もジャイロコンパスと同等であり、ジャイロコンパスの搭載義務
のない小型から中型船における方位センサーやジャイロコンパスの
バックアップとして有効である。