海上交通法規研究会 活動報告
平成23年秋季研究会
平成23年の秋季研究会は、海上保安試験研究センターにて、研究成果の紹介及び施設見学を実施した。松本会長の挨拶に引き続き、海上保安試験研究センター総務部の浜岡氏の案内で同センターの見学、研究成果の紹介が実施された。16名の参加者を得て、活発な意見交換や質問を交え、盛会のうちに終了した。
1. 海上保安試験研究センター見学会
(1)センター業務概要(施設)説明
航行援助技術課長 浜岡洋介
当センターは、東京都立川市の広域防災基地の一角にあります。都心からおよそ30キロメートル西の内陸部に位置することで、海との関わりが薄く感じられますが、 約1万坪の海上保安試験研究センター敷地内には本館事務棟、第1~第3試験研究棟、 回流水槽棟などの建物が配置されています。海上保安試験研究センターのルーツを辿るとその歴史は古く、明治元年7月、 神奈川裁判所に灯台の建設事業を行う燈明台掛が置かれ、横浜市中区北仲通において 灯台用の木工・鍛冶工関係の製作を開始したのに端を発します。その後、80余年にわたる間に幾多の変遷を経て、昭和23年5月海上保安庁発足とともに 海上保安庁灯台部工務課工場となりました。さらに灯台部工場、経理補給部工場と順次組織体制が強化され、 昭和47年5月、海洋汚染原因物質の分析・鑑定や水質検査等の業務を加えた組織として 海上保安庁総務部海上保安試験研究センターが誕生しました。海上保安試験研究センター発足後も、時代の趨勢とともに業務量が増大し、施設が狭隘となったことに加え、 臨海都市再開発計画による庁舎移転が余儀なくされたことから、平成3年3月、124年に及ぶ時を刻んだ横浜市から、 立川市に移転しました。また、海上保安試験研究センターは、大規模災害が発生し、政府の緊急災害対策本部が立川広域防災基地に設置された場合には、 海上保安庁の災害応急活動の拠点として機能します。施設内には、ヘリコプターによる災害応急活動の基地として活用するために、 指令室、駐機場(15機駐機可能)、給油施設等を有しています。
(2)航路標識シミュレータ
航路標識シミュレータは、東京湾、阪神港、明石海峡、来島海峡、開門海峡などに設置された航路標識の機能評価に使用しています。
(3)可視光通信実験と展示施設
LED灯器を使用する航路標識から可視光通信技術を活用した情報の送信の研究を行っています。
(4)電子情報分析業務
船員手帳等の偽造・変造の鑑定、GPS等の航海計器の解析、画像の解析、音響の解析及びこれらに関する試験研究を行っています。
(5)科学捜査分析業務
船舶衝突等に関する塗膜片・FRP片等の鑑定、薬物・毒物等の分析、鑑定及びこれらに関する試験研究を行っています。
(6)回流水槽
潮流を利用した発電装置の開発研究を行っています。また、可視光通信の実験も行っています。
(7)化学分析業務
海洋汚染の原因物質の分析・鑑定、船舶に使用する燃料油等の性能に関する試験、海洋汚染の防除のために使用する油処理剤等の性能及び毒物試験、その他これらに関する試験研究を行っています。
2.「海上交通安全と航行援助」研究成果討論会
(1)航路標識のシミュレーションを活用した評価手法に関する研究
航路不案内が原因で迷走する船舶に対し、海上交通センター等から迅速・安全かつ正確な誘導を行うために、誘導目標としての役割を想定した航路標識の新しい機能(誘導のための灯火等)の効果及び迷走船の低減に関する研究である。
関門海峡航路や来島海峡は、屈曲した航路のうえ強潮流であり特殊な海域である。このような航路において、迷走する船舶が自船及び他船に与える悪影響は計り知れない。このような迷走船を排除し、効果的な誘導となるための標識整備に役立つ資料を得るためコンピューターグフィックスを利用したシミュレーション実験により、標識の機能や標識配置等の調査研究を行っている。
輻輳海域で実際に試作灯器を用い現用航路標識の灯質変更を伴う視認実験は、費用対効果という観点からだけではなく、航行船舶に対する安全性からも有効な手段ではない。したがって、海上保安試験研究センターに導入している航路標識シミュレータにより各海域の現状や改善した状況を表示再現し、実験を行っている。
(2)灯火を活用した新たな情報提供に関する調査研究
海上で「光」と言えば、まず、灯台(光波標識)を連想させる。光波標識は、船舶の「道しるべ」となるものであるが、この光を使って船舶に対して有効となる何らかの情報を提供できれば、より航行船舶の安全に寄与できるものと思料される。
本研究は、可視光通信の現状と光波標識への応用の可能性についてについての研究である。通信を行う上で、伝送媒体となる光に変調をかけやすいことは重要な要素であるが、LED は応答特性に優れており、かつ光波が干渉しやすい性質を持つため、光を変調するためのデバイスとしては最適である。また、LED は半導体素子であるため、寿命が非常に長く、電球や蛍光灯のように交換する必要性が殆ど無く、保守性やコスト面で優れている。さらに、小型・軽量であるため、システムを小型化することが可能となる。
可視光通信の光波標識への応用の可能性について、要約すると
1 灯器を利用した試作器による通信の成功
2 変調によるチラツキは、技術的に回避可能
3 海上での実用的な通信距離を得るのは、現状のLED 灯器では極めて困難
4 背景光等によって、通信品質は低下
5 灯質により、情報提供頻度が低下
6 可視光通信は、現在では、産・学・官で研究・開発中であり、実用化は数年先
3.研究会総会
研究会継続申請について
来年度の春季研究会について
(幹事:藤本昌志)