「練習船新かごしま丸建造と実習教育」

山中有一(鹿児島大学)
<講演概要>

1. はじめに
 鹿児島大学練習船かごしま丸は水産人材育成のための実践の場として重要な
役割を果たしているが、建造後(昭和56年建造)28年となり、老朽化が進行し
ている。そこで効率的かつ安全な海上実習を行うため、かごしま丸の代船の建
造を平成21年度から3ヵ年計画で進めている。準備段階から10年近くが経過した
が、この間練習船をとり巻く状況は大きく変化している。

2. 代船建造の背景
建造の背景として以下の事項があげられる。
(1) 船体外板は全体として十分な強度を保っているが、局所的には腐食がいたる
  ところに生じている。平成17年には、航海中にビルジタンク外板に破口を生
  じ、漏水事故が発生した。原因は測深棒接触部の腐食であった。同様の部分
  的な老朽化は多くの部材で進んでいる。
Fig. 1 ビルジタンク船底破口(約1 cm)
(2) STCW条約とSAR条約(GMDSS)以降の海上安全に関する国際認識の変化や、国連
  海洋法条約以降の魚類資源管理教育に対する設備要求などに応えられなくなっ
    ている。
(3) 港湾・沿岸環境保全に対応する設備が不十分で、国際航海においてPSTの検査に
    対応できず、寄港ができない事態が生じている。
(4) 女子学生に対する設備や情報通信設備などの不備により、教育環境としては時代
    の要求にこたえられなくなってきた。

3. 代船建造計画
  平成18年に行われた財務省予算執行状況総括調査のころは練習船を取り巻く状況は
厳しく、一定数の大・中型船を減船した上で、全国練習船フリートとしてセンター化
することにより利用効率を上げること考えられていた。平成20年になって中教審答申
が出され、それを受けて平成21年に文部科学大臣が認定する教育関係共同利用拠点制
度が創設された。これは、演習林、農場、スポーツ施設、宿舎、英語教育や情報教育
拠点、FD・SDセンターなどを含む大きな枠組みであるが、かごしま丸の代船建造はそ
の一番手として名乗りを上げることが求められている。
 新かごしま丸は海洋基本法の理念のもとに、海洋教育研究の全国的なインフラとし
ての機能を持たねばならない。そこで「次世代型水産系練習船」をテーマとして、設
備、能力について検討してきた。その結果、欧州型漁船を参考に、マルチパーパス漁
業システム、Pod式電気推進方式とバトックフロー船型、全方向ブリッジなど大型練
習船としては新しい試みを行っている。調査観測システムは大学院生に対する教育研
究に耐える高度システムとして、生物海洋観測システム、食品トレーサビリティシス
テム、音響資源調査システムなどを装備する。

4. 乗船実習の内容
 教育関係共同利用拠点として行う練習船教育は従来の乗船実習とは異なる新しいもの
になるが、一方で海技士を含む高度洋上技術者の養成も海洋基本法に謳われもののひと
つである。教育目標とカリキュラムはそれらをともに満たすものでなければならない。
現時点でのこれらの問題に対する検討内容について報告する。
Fig.2 必要な教育内容の変化への対応
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